獅子の故郷⑧

  • 2013/08/11 01:40
  • Category: 物語
これはもはや報告であり、ハイライトである。
勝が父の病室に向かい、あの阿呆のような計画のくだりを話し、病室を飛び出して行ってしまうまでの、記録である。

病室を勢いよくあける勝。ちょうど席を外していた母。勢いの良さに見舞いの客人じゃねえな、と身構えた父親。
「おう、親父。土産話があるんだ聞いてくれ」
確実にはずみに乗っている勝。ただ、彼は父の病状を詳しく聞けていない。
「な、なんだよ、お前かよ」
予期せぬ息子の来訪に安どする父。しかし、彼が狙われることなど一ミクロンもない。
「親父、モンドセレクションだよ。モンドセレクション」
「あ?問答セレクション?」
一瞬間考える父。出てきたのは数独、クロスワードに次ぐ暇つぶし雑誌の新ジャンル。
「俺への見舞いの品か?」
「まあ、見舞いの、品とも言うのかな」
「…まあ、受け取ってやるよ」
「ああ、だからモンドセレクションだ」
笑顔の息子。問答セレクションを出さないことに怒りかける父。
「だから、うちでモンドセレクション目指すんだよう」
頭の中で少しずつ何かがほどけていく父。
「おめえ、まさかモンドセレクションってのは、ギンビスのアスパラガスやマイクポップコーンや土産屋なんかでたいてい一品くらいは受賞しているあのモンドセレクションのことか」
軽いもの扱いする父。
「そうだ。楽にとれるし、店は繁盛するだろ」
軽いと断定する勝。
「馬鹿野郎。あんな名誉な物とるのにはそれなりに大きな努力をしなきゃならねえんでえ」
意外としっかり把握していた父。
「大丈夫だよ、とるんだ。キムチで」
この漬物屋でキムチは漬け込んでいない。
「キムチを作る、だあ?許せるか馬鹿野郎!なんで急にキムチなんじゃい」
「ばっ。今の時代はキムチだ。キムチも漬物の一種だろ、白菜を漬けて何が悪い。あるべきことをあるがままにしているだけだ」
「許さん。消えろ、馬鹿息子」
「何を、妙にいい案、略して妙案だろうよ」
「お前の存在が恥ずかしい、消えろ」
「キムチ」
「父さんには辛すぎる!」
そう言って父は勝を締め出した。
外では勝が「俺にはあれでも甘口なんだよ」と呼応していた。
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獅子の故郷⑦

  • 2013/08/06 00:42
  • Category: 物語
疾走感は加速してゆく。
はやる気持ちは、坂道を自転車で下る勝を飛び越え、風と同化する。よもや空から下界を臨む神にでもなったかのような気分だ。
「そうだ、これなんだよ」
そう言いながら勢いよく立ち上がった勝は、フリチンであった。
「フリチンで何言ってるんだ、バカ」
佐竹がうるさい。今度こそその先に何かを見いだしたというのに。
扇風機の首振り機能に苛立ちながら考えていたあること。
昔の自分が刻んだ我慢。
それは、現状を打破出来るであろう。
勝は好奇心に身を震わせた。初めての感覚。迷惑の意味を見つけた気がした。
外に出て待っていた寛治がいつかのようにどこかを見つめている。その目に、勝は「悩みはようやくなくなったかい」と言われたような気がしたとかしないとか。
疾走感。
独りよがりでも、その先には何かある。
自転車は坂の下の病院へと向かっている。
モンドセレクション。
今や勝にとって疾走感と同義となった言葉。
突飛な発想で、父の漬け物屋を興隆させる。
それが勝なりの手向けになるのだろう。
モンドセレクション。
「漬け物で…?」
そんな俗っぽい疑問は、この田舎では出ない。

獅子の故郷⑥

  • 2013/07/31 22:49
  • Category: 物語
「で、結局面白いことって何だったんだよ」
壁越しに佐竹が聞いてくる。
「どうせまた、くだらないことだろう。頼むからそのくだらんに人を巻き込むなよ」
興味がないかのように寛治が付け足す。いや、本当に興味がないのだろう。
右側の壁から佐竹の、左の壁からは寛治のあくびが聞こえてくる。
「人ってのは他人と書いてひとと読む方な」
個々に四方を囲まれた状況の中、真ん中の部屋にいる勝は「お前らを巻き込むつもりはないよ」などとうなだれてみる。
「どっちにせよ誰かを巻き込むんだろ?」
ギクッ。
勝は自覚している。自分が行動することで周りに迷惑がかかるということを。だから少々厄介なのだ。
前に寛治から言われたことがある。
「迷惑かかるって知ってるならやらなければいいじゃないか」
確か中学の頃だ。どんな悪戯も童心にかまけと行えた小学生を過ぎ、大人となろうとしている頃合いに、呆れた寛治に言われたのだ。寛治は小学生の時も悪戯を阿呆らしいと言っていたのだが。
しかし、そうは思ってもやめられないのだ。こんなように答えたのではなかったか。
すると「なら止められるだろう」
「止めたい。が、その先に何か有るはずだと思ってしまうのだ。必ず有益なことがあるはず。これはもうほぼ病気で、欲を満たすと俺の中の善が主張し始めて困惑させるのだ」
「そうか、お前も悩んでいるのだな」
しばしの沈黙を過ぎ、視線を合わせることなく寛治はそう言った。
その後は覚えていない。そのまま沈黙で時間が過ぎたか、話が切り替わったかだろう。
その日の夜、固い決意のもと、やりたいことをやらずにでっかく書き記す、ということをしたのだが勝はそのことを忘れている。
その証拠に、目の前に書き記されている、その我慢が目に入っていない。
カラカラカラ。
右側からそんな音が聞こえてくる。
「くさっ」
勝は正直だ。
「なんだよ、トイレなんだから当たり前だろう」
ジャー。
「言い訳はいいよ」
その声とともに寛治は隣の部屋を出ている。
「早いな、お前は」
そうしてトイレットペーパーに伸ばした手を、ピクッと止めた。
勝の視線の先にはデカデカと文字が書いてある。
モンドセレクション、取る。
その下の方に、無理だろ。
その下には簡単だろ。
いつの間にか輪が出来上がっていた。

獅子の故郷⑤

  • 2013/07/25 09:50
  • Category: 物語
そう言えばこんな感じだったなあ。思い出してみれば物語の冒頭は簡単なもので、それでいてその容易さが悲しくもある。
あの日々が脳の中で整理され、今や小学生なのかさえ定かではない具合だ。
「遅いな」
何度も腕時計を確認するが、何一つ現れやしない。風がボーっと吹き抜けて、地下から地上を臨んでいる。それ以外に物は動かない。
そうか、あの頃の駅との違いがあった、などと納得する。
「虫も鼠もいないんだな」
だから寂しいのか、と続けるはずが、それこそ寂しいので止しておいた。
ボー。
もう来ないのだろう。勝手にそう結論づけて、トイレに行く。
したくもないのに、便器に腰掛けたのはいつも列をなしているからなのか。今日はドアが開け放たれている。その稀少感が勝のズボンを脱がせたのだ。
といっても出ない。出ない物は出ない。
シャーっと水だけが音を成す。
拭く必要もないか、とそのままズボンをはこうとして勝は動きを止めた。
「そう言えば」
目の前の落書き。
視線の先にはトイレによくある落書きがしてあった。
またもや勝の記憶は蘇る。

獅子の故郷④

  • 2013/07/17 15:04
  • Category: 物語
 あれだけうろちょろとしていれば誰だって気づくものだ。そう言われれば勝はそんなにうろちょろしていないさ、と反論するもので。何言ってるのだ、二時間もだぞ。勝はそうして何も言えなくなるのです。
 母の対処の末、病院に運ばれた父親を何もできずに見送った勝は、その足を次の日に病院へと運んだ。この躊躇は、自分への苛みと親父への照れくささと、とにかく色々なものがない交ぜになったものであり、その日のうちに行けなかったのはある種仕方のなかったことであると自身に言い聞かせた。
 「心配か?」
 親父はそうやって当たり前のことを聞いてくる。そら心配さ、そう言えなくするのは大きすぎる照れという壁であって、勝は「そんなわけないだろう」と唇をとがらせるのが精いっぱいであった。

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