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小学生とアンニュイ⑤

  • 2012/05/30 14:11
  • Category: 物語
 その背中を追わなければならないのか。平塚は今後の展開に頭を悩ませながら追わないわけにはいかない自分の性分を呪った。
 早歩きで平塚は石野に追いつき、疑問を口にする。
 「児童館って開いてるのか?」
 公園を出ると、車道と車が通れないように黄色く塗られた小さな鉄柱を挟んで、しっかりと舗装された道に出る。道は左右に大きなマンションを構え、まっすぐと伸びている。そのまままっすぐ進み、大きなバス通りに出ると、右手に児童館がある。
 石野と平塚がいる場所から三分としないで着くところに児童館はあるが、この混乱で開いているかは正直わからなかった。
 しかし石野は「大丈夫だよ。こんなときだからなおさら」と余裕を見せる。
 「でも、もしも開いてなかったら諦めるんだよな」
 「開いてなかったら、か」考えるような間をおいてから、不敵な笑みと共に「そのときはそのときだ」と口にする。
 石野のそんな表情と言葉から感じられるのは不吉しかない。
 正直言って彫刻刀で石を削るのも嫌だが、開いてない場合のほうが危険な気がして、平塚は妥協して開いている方に願いを傾けた。
 歩いてゆくとすぐさま児童館が見えてくる。二階建てになっており、一階は工作室、二階は遊戯室など、さまざまな部屋を用意している。
 「彫刻刀ってどこだろうな」
 「工作室じゃないか、普通に考えると」
 平塚がそう言うと、石野はピタリとその場に止まる。
 「普通ってさ、何からの目線で見た結果だよ」
 「はあ?」
 「そうやってすぐに一般大衆はこっちだ、何ていう憶測だけで物事を進めちゃうのは危険だぞ。もしかしたら彫刻刀は上にあるかもしれない。自分の考えが正しいと思うな」
 「石野、もうそういったやりとりは無しにしよう。お前のやりたいように上に行くから。もう大分疲れてるから」
 「そう。ならいい」
 何をもって石野が上に行きたいのかは分からなかったが、平塚は一向に先の見えないやり取りに嫌気がさして、挫折することにした。
 外にむき出しになった階段を上り、二階に進むとガラスの扉が待ち構えている。
 「なあ、石野。誰もいないんだから開いてないんじゃないかな」
 その階段の途中で平塚は愚痴る。
 「まあ待て。扉を見てみないことには始まらないだろう」
 石野はそう言って階段中は一切の質問は受け付けないというように上だけを見つめた。
 扉に前に立つといつもよりも大きくなっているような気がして、平塚は少し気味が悪くなった。
 「何だか大きくないか?」
 こんな非常事態だ。もしかしたら人間以外にも変異が起きているのかもしれない、と半ば本気に捉え、平塚は身震いした。石野には気づかれないように。
 「大きくないよ。今は人の通りが全然ないっていうのと、平塚が少し現状にビビり始めてるのが大きく見せてるんだよ」
 そうか。いつもは人の通りが多いこの扉に、今日はガラス越しに人影すら見えないから、その落差によって大きく見えていたのか。
 って。
 「誰がビビってるって」
 石野はそんな負けまいと躍起になる平塚を完全に無視して、扉、または扉の奥を丁寧に覗いている。その真剣な横顔に呆気にとられ、何事かと平塚は問う。
 「いやね、中には誰もいないのかなぁってね」
 「何だ、そんなことをね。お前もビビってるんじゃないのか」
 またもや平塚を無視して、今度は扉周りを丹念に調べていく。先ほどから決して扉には触れようとしない。その調子に平塚は訝った。早く扉を開いてるのか、それとも閉まっているのかを見極めてそれ相応の対処をすればいいのに。
 石野は意を決したように「よし」と声にならないような息を吐き、転がっていた手入れのされていない鉢植えに手をかけた。
 見守る平塚はその鉢植えをどうするのか気になった。すこぶるバイオレンスな事態になりそうだと身を構えた。
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小学生とアンニュイ④

  • 2012/05/29 15:51
  • Category: 物語
 長くなったが、平塚がやる、つまりは住むと決意してから、二人は湧水まで歩くことにした。公園の出口に向かい、外に出てから平塚は、後方にいたはずの石野の姿が無いことに気付き、足を止めた。
 振り返るとすぐに石野は見つかったのだが、その微動だにせず何かを見つめる様子はただならぬ雰囲気を有している。
 「どうしたんだよ、いきなり」
 出来うる限り軽い口調で話しかけながら、平塚は石野に近づいていく。その途中で石野が何を見つめていたのかが分かったが、何を今さらそんなものに見入っているのかは理解できなかった。
 「本当にどうしたんだ、石野」
 さっきまで二人がいた公園の名前を刻んだ石版に見入っている石野に声をかける。
 ついに気でもふれたか、と半ば本気で心配になる。
 「いやね、どうもこの辺りを刺激されてね」
 そういって石野は自身の胸の辺りを示す。
 「この辺りってのは、胸かな」
 「どうだろう、言い換えるならこの辺りと言ってもいいかもしれない」
 今度は頭部を示す。
 「脳か」
 「なあ、平塚よ。心ってどこにあるんだろうか」
 完全に狂い始めてるな、と内心諦めつつ、一方ではどこだろうと素直に疑問に思っていることに平塚は気付いた。おおよそ小学生は感じないであろう、自分ってまだまだ子供だな、という感慨にふける。
 「心が刺激されたって、何で」
 石版には『都立 花垂公園』としか書いておらず、人の心をくすぐるような、もしくは感動を与えるようなものは何も感じられなかった。
 「ここだ。多分ここが引っかかってるんだと思う」
 訝しげに平塚は指差す部分を覗いてみる。
 「都立」
 「そう、都立」
 「それが、何?」
 「区立にしたい」
 友人としてかけるべき言葉は何だろうか。おそらくどんなマニュアルブックにも今の状況は載っていないだろう。友人が都立を区立にしたがっているなんて状況は。
 「何も声をかけることができないけど、達者でな」
 せめてもの救いということで平塚は去ることにした。が、またもや石野は進むべき道の前に立ちはだかる。
 「もったいないよ、今帰るのは。これがチャンスってものだ」
 いったい何がチャンスであって何が違うのか判断できなくなる。それは一種の病気ではなかろうかと平塚は思った。
 「俺は常々思っていた。この都立を区立に変えてしまいたい、と。でもそれには結構長い時間が必要だろう。そして長い時間こんなところで作業していたら大人たちにたちまち怒られて作業は中止だ」
 「そうかもしれない」一度相手の言い分を納得してから「そうかもしれないが、おかしいのはそれをやりたいと思い始めたことだと思うな」逆説的に言葉を継ぐと、効果があるらしい。テレビで偉そうな人が言っていた。
 「今日はそれができる。ついでだからその願いを叶えてもいいかな」
 「心が刺激されたっていうのは、ただの悪戯か」
 「まあ、ただの、ね」
 世の小学生がどれほどやんちゃなのかは知らないが、これくらいの悪戯はどこかでしていそうなものだけどな、と平塚は自身の今までの経験から推測してみる。
 「平塚、俺の気持ちも汲んでくれよ。俺はこんな下らないことでも、未だ体験していないことはやってみたいんだよ」
 もっと大きな、それでいて誰かに自慢できるような望みであれば友人として全面的に背中を押してやるが、こうも小さくて、迷惑のかかることを応援することは憚られた。
 しかし、と平塚は考えを広げる。しかし、石野は放課後誰かと遊ぶということもなく、家に帰って家庭教師と勉強をしているという。学校でも彼はおとなしい方であるし、もしかしたら悪戯の類はしたことないのかもしれない。もしも石野の言う「未だ経験していないこと」が悪戯全般をさすのであったら、少し同情もしてしまう。
 胸は張れないかもしれないが、子供として、または大人に成長していく段階として、軽い悪戯というものは必要な気もする。
 本当にチャンスなのかもしれない。
 思えば、石野は監視されている時間が多いのではないだろうか。学校では先生に監視され、家では家庭教師、親に監視され、自分の、自分ら子供だけの時間や空間というものを味わえていないのかもしれない。そう思うと、徐々に平塚は石野の言い分にも納得していった。
 「一向に話が進まないけど、まあやるか」
 一瞬間、石野の顔が柔和なそれでいて明るい表情になる。
 平塚は本当にまあやるか、という気分にさせられた。
 「よっしゃ、じゃあまずは彫刻刀だな」
 「いやいや、無理。というか彫る気なの」
 「……。何、逆に彫らないのって聞きたいわ」
 「石だぞ。よくわかっているのか、石なんだぞ」
 ふむ、といった具合に石野は石版を撫でてみる。続いて押したり、軽く叩いてみたりして硬さを確かめている。
 「平塚。目の前に大きな壁があったとしてもさ、ぶつかりに行きたくなる精神ってあるだろう」
 平塚の頭の中では、そんな人は神風特攻隊あたりで途絶えたはずだが、石野はその末裔か何かだったのか、と小学生にしては見識の広いところを見せ付けた。ただ、それは考えただけであって誰にも伝わらなかったのだが。
 「俺は、できるかどうか試してみたいんだ」
 なかなか恰好いいことを言うが、使う場面をはき違えすぎだ。その言葉は平塚の心には全く響かなかった。
 「文脈からいって、お前は無理だって悟ってるよな」
 「よし、児童館で彫刻刀でも借りるぞ」
 石野は言うともなしに歩き始めていた。

小学生とアンニュイ③

  • 2012/05/21 23:58
  • Category: 物語
 平日の昼間の公園に、石野や平塚のように小学生がいないのは分かるが、どんな種類の人間もいないというのはやはり新鮮に思えた。排気ガスを振りまいて、もしくは騒音を撒き散らす車もバイクも通らない。
 「これから何をするの?」
 静かな公園。風の音とそれによる木の葉の揺れる音しか聞こえず、二人の声は否が応にも辺りに響く。この異様な事態にさらに異様なことをする意味はあるのだろうか。
 「とりあえず水だな」
 「さっき言ったでしょうよ。水はそこにありまっせ」
 平塚が指差した方向にはぽつんと水のみ場が置かれていた。寂れたような、どこか物悲しさを感じさせるのは、いまや犬すら飲まなくなったという事実を知っているからかもしれない。違うのかもしれない。
 「言い方を変えれば理解してもらえるかな。新鮮な水がほしい」
 新鮮な水。もしかして今から富士の湧き水でも取りに行こうとでも言うのだろうか。
 「新鮮な、っていうのは具体的に言うと何?」
 恐る恐る平塚は口にする。思い通りの答えが返ってきた場合は、直帰しようと考えていた。
 「湧き水を取りに行く」
 平塚は自身の焦点をどこにも合わせずに公園の出口に向かった。
 「まてまて。何を勘違いしているのかは知らないが、お前の思っていることとは違うと思うぞ、おそらく」
 それでも何も聞こえないという風に無視をきめるが、石野が回りこんできたので重い口を開く。
 「湧き水を取りに行くなんて無理だ。第一、電車も何も動いてないんだぞ」
 「電車?」
 電車という単語に疑問符をつけた石野に対し、平塚は疑問符を投げかけた。というよりも少々困惑した。
 「何で電車なんて使うんだ?」
 きょとんとした顔で更に訊ねてくる。
 「どこに行くつもりだったんだ?」
 平塚は石野に聞いてみることにした。
 「どこって、歩いてすぐのところに水を汲む場所があったよな。あれ、なかったっけ」
 平塚は自身の早とちりっぷりに恥ずかしさを感じ、反省していた。見られているのは石野だけだと分かっているのに、それでも赤面した。
 そういえば確かに、歩いてすぐのところにこの近辺では有名な湧き水があった。普段なら湧き水とその場所がイコールで結ばれているかのように直結しているのに、今日は富士しか頭になかった。平塚は目の前の男のペースに飲まれつつあることを悟った。
 自分の早とちりを理解したといえども、一度動いてしまった行動を撤回するのは更に気恥ずかしく感じられ、ほぼ意地になって平塚は帰路につこうとした。
 「おいおい、恥ずかしいからって頬を赤らめることはないだろう。そういったのは色恋沙汰のときにとっておけ」
 「いや、もういい。帰る」
 帰ろうとする平塚の前に石野がことごとく立ちはだかる。
 「諦めろよ。どうせ暇だろう」
 お前もだろう、と逆上してもよかったのだが、自身にも比があることも認めざるを得ないので、負けじと根性を出して意識外の言葉を平塚は発した。
 「お前はいいのかよ。親とか家庭教師とか」
 少々沈黙があり、平塚にもその空気感の険悪さは気づいた。しかし、石野はそんな雰囲気を払しょくするかのように、そしてそれを隠すかのように明るい調子で話した。
 「何言ってんだよ。今は親も家庭教師も動けないだろう。今までにないくらいに開放的なんだよ」
 そうかもしれない。今はアンニュイだか何だかが飛び火しており、多くの人間は動かない。両親、先生、友人、周りで動いているのは石野と平塚ぐらいのものだ。
 今ならなんだって出来る。お酒を飲んでも、車を動かしても何も言われない。
 だからといって野宿という選択はどうかと思うけどな、と心の中で平塚は呟く。
 「確かに、これほど開放的なこともないだろうけど、不安だろう」
 非力な小学生は多くの助けを必要としている。しかし、今はその助けを与えてくれる人間が一人としていない。
 「そうかな。俺はそうは思わない。逆にチャンスだろうよ」
 「チャンス?」
 「え、チャンスも知らないの?お前の人生疑うわ」
 「違うよ。チャンスは知っているに決まってるだろ」
 「へえ、それは相場で決まってるのか。市場を理解するのは難しいね」
 平塚は石野の言葉の後半部分をわかっているフリをして話を戻す。
 「なんでチャンスなんだ、ってこと」
 石野は大仰な身振りで発想が貧困なんだよ、といったような仕草を見せる。アメリカ人でもしないほどの大きな肩のすくめ具合であった。
 「まず状況を考えてみろよ。アンニュイ、つまりは倦怠感がすべての人間にふりまかれたんだ。周りを見渡して動いている人間がいるか?」
 先ほどから気付いていた通り、誰もいない。
 「いないな」
 「そうだよ。ということはだよ、俺らの敵になり得る人間もまたいないってことだよ」
 「俺らの敵って、また大げさな」
 「逃げる変質者もいない。捕まえる警察もいない。いるのは二人だけ。それでいて昨日までの世界が継続している。どうだ、これほどチャンスな状況もないだろ」
 「そう、なのかな」
 「考えてもみろよ。どの店に行っても誰もいないんだぜ。し放題だろう」
 この辺の発想が子供らしくてよかった。
 「かもしれないな」そこで平塚は言葉を区切り、大切な言葉をそのあとに継げる。「だったらなおさら水はいらないよね」
 しばし沈黙。
 「お前はどれだけ無駄を省きたいんだ?まだ小学生だろう」
 「そういう訳じゃないけど、最善なのは湧水じゃないって言いたいんだ」
 石野もなにかしら頭の中で考えてみたのだろう。また少しの時間沈黙があったが、開き直ったように石野は口を開いた。
 「うるさい」
 本当に開き直ったなお前は、平塚は少々びっくりしながらも突っ込みの言葉を考える。さほど多くの時間は有しない。というより、長い間を作ってしまったらそれこそ終わりだ。
 「どこぞの王様だ、お前は」
 「まあ、今日くらい好きにやらせてくれよ」
 石野の表情に哀愁ともつかないかげりのようなものが垣間見えた気がしたが、表情は笑っていたので平塚は気のせいだと思った。思い込んだ。
 しかしながら何となく石野の理論に誘惑され、自分も好きなことでもしようかなと平塚は思い立った。
 今日くらい。
 石野はこの状況を本心では案じていたが、長くは続かないだろうという予知めいたことを感じていたので、楽天的でいられた。なにより、普段味わっている閉塞的な生活から開放されるということに胸を躍らされていた。しかし、石野はそんな様子を微塵も外に出さず、平塚にも全く悟られていなかった。

小学生とアンニュイ②

  • 2012/05/20 22:08
  • Category: 物語
 やりすぎな具合に石野は目を逸らす。というより平塚の視線と重なり合うかのようなベクトルに視線を投げかけている。つまりは、平塚から石野の顔は一切見えなくなったということである。
 「おい、そんな憐れむな。自分のことながらに、さっきまでの弁論が恥ずかしく思えてくる」
 待ってましたとばかりに先ほどまであった位置に顔を戻す。
 「じゃあ、平塚もこの話はやめたいんだな」
 「あ、ああ」
 何か嫌な予感を感じ、平塚は気圧された。
 「話を戻そうか」
 「え?」
 「ここに住もう、という話で進めていいね?」
 「待て」
 「まずは水が必要かな?」
 ここで二つのことに脳は働いた。石野の無視する態度についてと、水について。平塚はどちらにも他人に見せ付けたいという欲にかられ、無理して二つ突っ込んでみることにした。
 「俺の話を無視するな。それに水はすぐそこに水のみ場があるから大丈夫だろう」
 「テンポが悪いな」
 案の定。ダメ出し。
 「だけど、平塚のそういうところ嫌いじゃないよ」
 思いがけない言葉に平塚は困惑した。
 だいたいが、平塚は今まで学校でしか石野と話したこと、遊んだことがなかった。石野は放課後には家庭教師があったからだ。だから、あまりお互いのことをよく知らないと思っていたが、互いに嫌いじゃないと思うところは見出していたらしい。何だか悪い気分はしなかった。
 石野はおもむろに立ち上がり、手を差し伸べる。
 おそらくはこれに手をそえて立ち上がれという意味なのだろうが、それをしてしまうと石野のペースに乗せられてしまうと平塚は予期していた。俺もここに住まされる、と。
 「シャル ウィー?」
 ああ、目の前の少年が英国紳士で、自分が女性だったならこんなにも華やかな場面もないであろうに。平塚にはどうしても現状が美しいものには見えなかった。
 「なんでそんなこと思いついたんだよ」
 「アハン?」
 石野は英国紳士にでもなりきっているのだろう。そうでも思わないと嫌いになりそうだったので、平塚はそうして無理やり自分を納得させた。
 手をつかまなければ禅問答のような中身のない会話を延々と繰り返される。手をつかめば一緒にこの公園に住むことになる。
 小学六年生の初めての外泊が野宿か。
 進めば地獄、退いても地獄。ならば少しでも前に進みたい。そう思うのが人間のあるべき道理のように思えた。
 平塚は石野の手をとっていた。
 「長いよ、決意が」
 わざわざ倒置法で文句をたれる石野を前に、平塚は早くも後悔し始めていた。

小学生とアンニュイ①

  • 2012/05/19 23:50
  • Category: 物語
 ある公園のベンチの上、二人の少年が腰掛けている。ひとりは両足をベンチに乗せてあぐらをかき、一方は頬杖をついて遠くを見つめている。
 「平塚、俺はここに住むよ」
 どの口からそんな言葉が出てくるのか、実際に発せられた口を見ても平塚は信じられなかった。その口の持ち主はすこぶる遠くを見つめて意味深な視線を自然に向けている。 
 ベンチから臨む景色は生い茂った草と下り坂。もしかしたら丘と言った方が早いのかもしれない。坂というのは普通の自転車で上るには辛いような斜度を持ち、その下には小さな時計台が腰を据えている。
 その時計台に視線を移して眺めながら、石野は急に居住宣言を果たしたのだ。
 「いいんじゃないか。ほら、丁度水のみ場もあるし」
 ベンチから数歩いけば水のみ場がある。立派、とは言いがたいかもしれないが、それでも水が確保できるのは大きいだろう。平塚と呼ばれた少年は心底どうでもいいというようにそうぼやいた。
 「何だよ、他人行儀だな」
 「他人行儀なんだよ。仕方ない」
 あぐらを解き、石野は正面から平塚を捉えた。そして、おもむろに平塚の両肩を持って、さも真剣な話でもするかのような瞳で見つめる。
 「俺たちは運命共同体だろう」
 「違うよ。気持ち悪いなお前は」
 両肩に乗せられた石野の手を払いのける。
 石野はつまらないとでも言うように唇をとんがらせた後に、また前を向いて景色を眺める。
 「平塚、俺はここに住むよ」
 平塚はデジャブを覚えた。あからさまに先ほどの展開と同じだ。
 石野はこういったところがある。彼の望んだ答えが返ってこなければ、彼が折れるか相手が折れるかするまで何テイクでも重ねていくのだ。しかも、大抵は石野が勝つ。いつもは何にも執着しないくせに、こういった時だけ根気強い男なのだ。
 「……。勝手にしてくれ」
 言葉を変えてみた。が、当然のように石野の望んだ答えではなかったらしく、分からない男だね、とでも言うように左の口角を持ち上げ、眉根を反らせた。
 「いいか、平塚。俺が言っているにはウィズ ユーってことだ」
 「ウィズ ユー?」
 残念なことに志の低い小学生にはそんな基本的な英語も分からないのだ。
 「基本だぞ、平塚。中学で速攻なめられるな」
 「そんなこと言ったって、まだ英語なんて習ってないんだ。習ったら俺だって」
 「おいおい、お前は使えない新入社員か?違うだろう。誰にも何も言われなかったから何もしませんでしたって、通用しないんだからな」
 「お前は本当に俺と同じだけの年月を過ごしてきたんだよな」
 「その言葉は俺が言いたいね」
 石野と平塚は来年で中学生になる、小学六年生。
 「言っておくけどね、俺はそんなに頭悪い方じゃないからな」
 平塚は周りと比べての相対的な見解を述べた。
 「まあでも、俺よりは悪いだろ」
 うっ。と口から出かけるが何とか押しとどめることに成功した。この息ともつかない些細な言葉でも、聞かれていたら図星だとばれてしまう。
 「ぎゃ、逆だ。石野が頭いいだけだろ」
 「そうかもしれないな」すんなりと受け入れるその態度が平塚は嫌いではなかった。「でも境遇は同じだろ。平塚も俺も中学受験はしないし、同じ公立の中学校に進学だ」
 石野は中学受験もしないくせに家庭教師を雇っている。平塚から見たら別に何とも思わない、逆に遊ぶ時間がなくて可哀相だとさえ思っているが、受験に臨む同輩からしたらうらやましいらしい。
 「その中にも個人差はあるだろうが、俺は俺なりにだな」
 平塚は石野の表情を見て気づいた。こいつは俺のことを憐れみを持って見つめている。今まで平塚が抱いていた可哀相が自分に対して向けられていることに気づいた。
 「もうやめないか、この話」
 うんざりだ、と言いたげに石野は声に出すが、その音には平塚への多少の皮肉を含まれていた。もちろん石野なりの冗談であることを平塚も知っているが、何かが少しだけ頭をかすめていた。苛立ち、と言うには優しすぎるような気がする、少し言葉にしにくい感情である。

お世辞へのベストな対応について

 こんにちは、コラムコーナー第二回目です。2回目、すなわち本ブログのネタ枯渇はいよいよなところまで来たということですよ。今回も編集長による要請があったお題で寄稿させていただきます。駄文ではございますが、よろしくお願いします。尚コラムコーナーの無知による偏った思想は全て1人の劇団員によるものであり劇団員全員の総意ではないことをここに記します。

 さて、今回は「お世辞へのベストな対応について」です。
 そんなの「お世辞でも嬉しいです」しかないのではないかと思うのですが、他に正解があるのでしょうか?
 「嘘つけ」とでも言うのでしょうか。お世辞を言った相手に対し失礼な事はできないですし、いくらその相手が許しがたき敵、公共の福祉に反する最低な人間もどきであろうとも、そんな悪意を向けることができるほどの勇気を私は持ち合わせていません。
 すなわち「お世辞でも嬉しいです」がベストアンサーということでファイナルアンサー?
 などとふざけたことを言っている途中で気付いたことがあるので報告します。
 そういえば私、そんな事言った憶えがない。むしろ「嘘つけ」と言った事の方が多い気がします。へたれでビビりな私にそんな勇気があるわけがと思ったのですが、私の「嘘つけ」は敵意のある意味ではない「嘘つけ」だったことを思い出しました。
 私の「嘘つけ」は照れ隠しの「嘘つけ」、つまり「お世辞でも嬉しいよ」を内包した「嘘つけ」。ツンデレというやつです。
 お世辞には「相手をうれしがらせるためのことば」という意味があるそうです。
 そんな言葉を言ってくれたということは相手が少なからず自分に対して優しくしてくれたということでしょう。
 そんな優しさに「お世辞でも嬉しいよ」なんてキザなことができるでしょうか。そんな対応ができるほ程ヒトは素直になれるでしょうか。なれないんですよこれが。
 だいたい「お世辞でも嬉しいよ」という言葉自体が私にはお世辞だと考えます。
 相手の優しさにお世辞で答えるというのは相手のお世辞に対して失礼にあたるのではないかと考えます。
 なぜならば「うれしがらせよう」と意図した言葉に素直にうれしがらず逆に「うれしがらされる」のでは、ただのオウム返しではありませんか。
 相手のお世辞への真摯な対応というのは素直に受けるという事ではないでしょうか。
 そう考えると「ありがとう」等の感謝の言葉や「だよね~」等の有頂天な感情表現がベストなのではないか。そう考えると思います。
 私もそう考えました。
 しかし私にそのような素直な感情表現が出来るのか。ヘタレなビビりの私にはそのような明るい振る舞いはできません。できたらこんなコラムも書いていません。
 それではどうすれば良いのか。
 悩みました。悩み続けました。
 そしてひとつの答えが浮かびました。
 
 「嘘つけ」。
 これが私の私なりのベストな対応です。優しさをどう受け取ってよいのか分からない。でも反応したい。何か言いたい。
 「すごいじゃない」そんなわけが無い。私はそんな誉められるほどの大層な人物ではない。
 それが嘘なことも知っている。
 しかしそれでも少しでも感謝の意を表したい。そんな気持ちがないまぜとなった
 「嘘つけ」。
 全然素直ではない言葉。
 しかしこれは素直ではない自分の素直な感情表現なのだと思います。
 いつか本当に素直になれるその時が来るまで私はあらゆるおべんちゃらに対して「嘘つけ」ということでしょう。相手には嫌がられるかもしれません。
 ですが嘘を言いたくない。真実の気持ちを相手に伝えたい。そういった思いを込めることが私なりの真摯な対応だと考えます。

 普通でいいよ、気持ち悪い。

 
 ちなみにこのコラムコーナー。編集長の意向によりもうちょっと続くそうです。
 ごめんなさい。

プロローグ

  • 2012/05/10 23:43
  • Category: 物語
 誰も伝聞しようとはしない、世にも不思議なことがあった。
 気づかなかった人もいただろうし、気づいた人も大勢いただろう。しかし、一人としてその不思議さとおかしさについて触れる人はいなかった。物事には理由がある、というが、これにも理由はある。
 普通の人間であれば不思議な体験というものは他人に言い聞かせたくなるもので、話題の種にもなる。たとえそれが恐怖体験であったとしても、自分以外の人に打ち明けることで自らの保護にもつながり、やはり話すであろう。
 しかし、今回は偶然か必然か気づいた人は皆、一様にしてアンニュイを携えていたのだ。簡単な話、意気揚々と、どんなに不思議であろうが話す前に倦怠感に押し負けてしまうということである。
 いかにも馬鹿げた話である。
 しかし、確かにあの七日間、通常の人は動かなくなり、ある特定の人間だけが外を歩き回っていたのだ。
 五月の中旬、世に言う五月病というのが新聞に取りざたされ始めた頃合。街には様々な人間が横行していて、何の変哲もない日常を過ごすはずであった。が、五時を知らせるチャイムと共に状況は一変する。
 年齢や性格を問わず人は次々とその場に座り込む。熱心に携帯電話の画面に見入っていた若者の手からはその大事な携帯電話が滑り落ちる。杖をついて大儀そうに腰を曲げて歩いていた老人は杖を放り出して地面に横たわる。車も走らない。電車も走らない。飛行機は着陸と同時に動きを止める。
 一体何が起こったのか。そう考える人はよもやいなかった。
 五時のチャイムが鳴り終わると、続いて男の声が聞こえてくる。
 「あー、あー、ただいまマイクのテスト中。なーんつって」
 小学生が物珍しい様子で慣れないマイクを使うときの、ほのぼのギャグみたいなのをかますが、誰も反応しない。ちなみに、全国に流れる放送である。
 「話を聞いている人間なんていないだろう。まあしかし、一応言いたいことがあるので耳を傾けてほしい。つい先ほど、細かく言うと二分ほど前に、電波に乗ってあなたたちの元にアンニュイを伝播した」
 もちろん、誰も何も言わない。おそらくアンニュイがなくても反応はしなかったろう。近年、ただの親父ギャグは肩身が狭い。複雑でそれでいて分かりやすいものが受ける時代だ。何とも難しい。
 気の抜けたような顔で空を仰ぐ人々は誰にともなく立ち上がり、のろのろと歩き出す。目的地は、ただただ休めるところ。動かなくてもいいところ。
 つまりは、自宅。宿泊先。
 そこに着いてしまえば、人々はどうなるのだろうか。
 「……。ちょっと寂しいな、反応がないっていうのは。まあいい。今私は最大級の電波塔にいる。こういった危機的状況に陥った場合、人類を救うヒーローが現れるのが定石だ。現実でもそんなことが起こりうるのか、また、そのヒーローというものを見てみたい。誰か私の元に来てくれ。アンニュイは全国の隅々に渡ったはずだ。誰かが動くということもおそらくないだろうと思っている。奇跡でもなんでも起こしてみてくれ」
 そのとき、電波に乗せてアンニュイを飛ばした当人も知らなかった事実がある。後になって彼も気づくのだが、元々体の中に大量のアンニュイを秘めている人間は、アンニュイが飛ばされているこの時期には逆に動けるようになるようなのだ。
 だから、ある程度の人間は今も動いている。男の言う奇跡はすでに起こっているのだ。
 しかし、元からアンニュイを持ち合わせた人間である。いくらけしかけても彼らは動かない。現状に満足してしまうかもしれない。
 つまりは、誰も何もしない。という図式が生まれ、何ら生産性のない日々が始まるということである。
七日間で終わってしまったアンニュイな日々。
 なぜ七日で終わったのか、それについても誰も口にしない。
 秘密の物語である。

また書きます。続編ではありません。

  • 2012/05/07 00:11
  • Category: 物語
 今まで幾度となく挑戦してきた物語があります。そして、挑戦してきた分だけ挫折してきた物語でもあります。
 書きます。
 文句があるならコメントしてください。あんな便利な機能があるにも関わらず永山さんしか使わないのは残念です。もっと使っていきましょうよ。
 と、いうことで一度コメントっていうものをもらってみたいので書きます。

 挫折してきたと言いますが、その理由として一番大きいのは笑い主体じゃないってことです。ふざけていればOKってなもんじゃないので厄介なんですよ。
 そして、内容的に全く盛り上がらないということ。正直読み物として致命的な欠点ですが、なんか気にいっちゃってるので仕方ないのです。
 コンセプトとしては、「非日常の中の日常」です。
 おっと、こいつぁ逆じゃあねえか?なんて画面に向かって中指を突き立てている人もいるかもしれませんが、間違えではありません。非日常なのに、わざわざ日常を見出すのです。面白くないのです。
 それでもなぜか好きなんですよ、この物語。やってみたい。
 どうか温かく見守ってほしいな、と。
 前回は完全な見切り発車でしたが、今回はちょいと違います。題名がちゃんとあります。
 「アンニュイ電波」
 どうすか。想像力をフルに活用して思い描いてみてください。
 おそらく想像通りです。

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劇団群狼×劇団すかんぽ

Author:劇団群狼×劇団すかんぽ
日本大学法学部「劇団群狼」と大妻女子大学「劇団すかんぽ」の公式ブログです。
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