消しゴムの使い道⑩


 ひと段落着いたら、周りに急に特殊な、それでいて誰とも被らないような雰囲気を有した人たちが現れて囲んだ。この一区画を封鎖し、様々な処理をし始めた。倒れこんだ人たちを運び、弾が当たってへこんでしまったテーブルと全く同じものを持ってきては交換していった。
 いつの間にか騒動が起きる前と同じ状態になっていた。変わったところは人が戻ってきていないところだけだ。
 いったい何なのだ、この人達は。冷静な気持ちを取り戻してきた小島がそう思った途端にルイスよりも更に一回り大きい人が現れ、ルイスよりも高い位置から拳を突き落した。
 ルイスの頭からはプシュウと湯気でも出ているかのように見える。
 
 ルイス 「痛いです。痛い」
 マスター「いつまでも来ないと思ったら、こんな所にいたのか」
 ルイス 「来なかったのはマスター達でしょう」

 何も言わずにマスターと呼ばれた大大男はルイスにビンタを張る。
 
 ルイス 「な、何すかぁ」
 マスター「調子に乗るな、馬鹿者」
 ルイス 「だってここ集合でしょう」

 今度は先ほどとは違う頬を打った。たぶん、彼なりの優しさなのではないかと信じたいところ。見たところマスターという人はルイスの上司のようである。

 小島  「あ、あの」
 マスター「改札から右だ。ここは真反対の方角だろう」
 ルイス 「そんな、北口改札から右に来たらここに―――」
 マスター「全く、カメレオンも集合しないし、バラバラもいいところだな」
 ルイス 「え、この人がカメレオン―――」

 マスターという人は人の話をまるで聞かないようだ。小島の言おうとしたことにも、ルイスの勘違いにも見向きもしない。

 マスター「なぜこんなことになった?お前が何かやらかしたんだな」
 ルイス 「そんな、それは言いがかりですよ。むしろ役に立ったんですよ。ね?」
 小島  「いや、あまり覚えてなくて」
 ルイス 「何だって!?じゃあ、あの、あの…あれ」
 
 ルイスはここにきて初めて慌てていた。たぶん、気を詰めなくていいという環境からくる余裕なんだろう。
 
 ルイス 「顔の傷の人がいない」

 そこにはアメの姿はすでになかった。まるで初めからいなかったかのように。

 マスター「何を難逃れしようとしているんだ?」
 ルイス 「いや、あの、そういうことではなか」
 マスター「なぜ九州弁なんだ!怪しいぞ」
 
 小島は二人のやり取りになんとなく現実感を取り戻した。彼らのような特殊な職業であっても和やかなムードというものはあるのか、と。

 魚田  「おお、小島じゃないか。なんでここにいるんだ」
 小島  「え。魚田さん。鼻は大丈夫ですか?」
 魚田  「鼻?何のことだよ」
 小島  「記憶がないのはこっちとしては儲けものなんですけど、それはそれで心配しちゃうんですけど」
 魚田  「今の今までロッカーに閉じ込められてたんだぜ?」
 小島  「魚田さん…」
 魚田  「頭をたたかれても恐らく記憶は変わらないぞ」
 小島  「いや、故障かな、って」
 魚田  「発想がアナログだな。叩いて直そうなんて」
 小島  「どういうことですか」
 魚田  「もう実現しないかもな。消しゴムの使い道グータン」
 小島  「…。初めから企画として成り立っていませんよ」
 ルイス 「今回のことについては一切の他言無用です」
 
 先ほどよりも頬を膨らませたルイスに魚田は驚き、小島もまた驚いた。
 マスターというあの上司にやられたのであろう。本来の力をもってすれば頬を膨らませるのではすまないはずで、ということはマスターの手加減と思いやりがその赤く染まった頬から感じられる気がした。あくまで、気がした。
 
 マスター「申し訳ない。こんなことに巻き込んで。今回においてはあなた方を巻き込んでしまったのはこちらに落ち度があるようだから、このまま帰します。ただ、漏らしてはいけません。絶対にいけません」
 小島  「(自分から巻き込まれに行ったらどうなるんだろう。想像もしたくない)」
 
 そのまま引き上げていった彼ら。いったいどこに帰り、それからどこに向かうのだろうか。気になりはしたが、さっきのマスターの言葉が浮かび、想像をやめた。
 

 ルイス 「マスター」
 マスター「ん?」
 ルイス 「消しゴムの使い道ってなんですかね」
 マスター「何だ急に。故障かな?」
 ルイス 「なんで頭叩くんですか」
 マスター「リペアーだ、馬鹿」
 ルイス 「で、マスターはなんだと思いますか」
 マスター「消しゴムの使い道なんて一つしかないだろう」
 ルイス 「消すこと、ですか」
 マスター「…お前がそこ先越しちゃうと、俺の発想が恐ろしく陳腐なものになっちゃうじゃん」
 ルイス 「陳腐ではありますよね」
 
 ゴッ。

 ルイス 「痛いですよ」
 マスター「そんなお前はなんだよ」
 ルイス 「僕も消すことです」
 マスター「…ハッ」
 ルイス 「でも、それには消すものが必要でしょう。そこまで想像するのです」
 マスター「…なんだか深いこと言いそうな雰囲気が悔しいぞ」
 ルイス 「僕の場合、失敗を消すことです」
 マスター「今日の集合できなかったこととか?」
 ルイス 「ええ」

 ゴッ、ゴッ。

 ルイス 「何で」
 マスター「こんな時くらいいいこと言ってくれ、情けなく思う」
 ルイス 「ちょっと、マスター。待ってくださいよ」
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消しゴムの使い道⑨

 
 小島 「うるせえっ」
 魚田 「え?」
 ルイス「え?」
 アメ 「え?」

 三人のバラバラな人がいて、こうも同じ言葉を口にすることがあるだろうか。まあ、たった一つの単語ではあるのだが。それほどまでに奇怪な言動を小島はしたのであった。
 ズンズンと突き進む小島。どうしたものか、と見守りながらもある者は手に汗握り拳銃を構え、またあるものは経緯をじっと見つめる。どちらも、すぐに敵と見定めた人間に殺意をもって襲い掛かるための準備である。
 半端ではない警戒心のもと、小島は見守られていた。
 そんなことにも気づかず、小島は堂々と魚田の前に立つ。

 魚田 「いや、あのだから…」

 ヒュン、と風を切るほどではないまでも、真正面から受け止めたのならやわな骨くらい折れてしまいそうな拳を魚田めがげて放つ。彼の世界で生きているならば見ていなくともよけてしまえるような、そんな拳であったが魚田はよけられなかった。だからアメとルイスは驚いた。小島が何か、気づけないようなトリックを使ったのではないであろうかと。馬鹿げた話、特殊な能力でも持っているのではないかと。
 頬、というにはずれすぎた。鼻の部分に入ってしまった拳を見つめ、小島は血がついていることに気づきた。
 鼻からダラダラと魚田は血を流していた。驚いた表情で、信じられないといった具合で小島を見る。少し間の抜けた面白い表情であった。
 それに笑い出した小島。

 小島 「ハッハッハッハッハ」
 
 ルイス「(また何かの作戦なのか)」
 
 アメ 「(高らかな笑い、を通り越しているぞ)」

 魚田 「な、何を…。うおップ」

 またもや放った拳を、さすがによけた魚田は未だ殺気むんむんの小島を見て一瞬間たじろいだ。おそらくこの後どうするべきかの間であったのだろう。

 魚田 「これは…何というか。…ドロンっ!」

 そういった直後に煙がもくもくと上がり、煙が消えると同時に魚田も消えていた。
 ルイスは構えるのをやめ、拳銃を胸ポケットにしまった。そうして小島の近くに歩いていく。アメも同様に緊張を解いて木から飛び降り。
 「すごいな。あれだけの相手に拳だけなんて」
 ルイスは小島の雰囲気全体を見るために遠目から眺めた。何か特別な仕掛けなどは見つからなかった。
 今でもなお小島は素人の雰囲気を発している。それでいて相手を逃避にまで追い込んだのだからやはりすごいと言わざるをえない。ルイス自身、先ほどの相手と対峙してそこまで持っていけるかどうか分からないぐらいだ。
 「確かにな」腑に落ちないといった具合のアメは続けて「だが」と呟いた。
 そうしてポケットから拳銃でも凶器でもない飴を取り出した。包みを剥がし、口にくわえる。もちろん棒つきだ。
 何も喋らない小島と、そんな腑に落ちないといった具合のアメを見比べ、ルイスはついに「どうした、二人とも」と言った。
 アメは口をもそもそと動かしながら肩をすくめてみせた。それ以上に求めてくれるなとでも言っているかのような目である。
 
 小島 「ドロンは古いッ!!」

 その言葉がどこまでも遠くに届くかのように辺りに響いていた。
 何とも異様であった。

消しゴムの使い道⑧

 辺りはまたもや沈黙に包まれる。
 その沈黙を破ったのはルイスであった。

 ルイス「す、すごいですよ!カメレオンさん」
 小島 「だからカメレオンじゃねっての」
 ルイス「まさかあの殺気の全くない状態であんな作戦を考え遂行するなんて。信じられない」
 小島 「え、作戦?」
 ルイス「あの傷の人を活かすためにわざと顔を出して、あそこの注目を一点に集めた。そうすることによって彼は楽かつ安全に向かえたんですね」
 小島 「ああ…」
 ルイス「普通少しの目論見というか、暗い考えというかが隠し切れないんですよね。でもあなたはそのような雰囲気がまるでなかった」
 小島 「あぅぅ…」
 ルイス「しかも、あの人と呼吸を合わせて顔を出すなんて、あんたは天才だ」
 小島 「お、ぉうよ」
 ルイス「やっぱり違うなぁ。自分で認めれるんだもんなぁ」

 と、ルイスはもてはやしているが、小島の意識は段々と薄れていった。自分の考えの範疇を超え、さらに超え、もうどうしようもない所まで来てしまった。そんなところまで来た今、小島の意識も共にどこかに飛んで行ってしまったようだ。
 もはや何も聞き取れてやいなかったろう。

 なんかさっきからあいつら騒がしいな。
 しかしあいつらに助けられたのは言うまでもない真実である。感謝はするが、偶然のようにしか思えない。
 と、ふざけるのはここまでだ。あの大男も気づいたことだろう。
 先ほどまで静かであった最後の一人の場所から、とてつもない殺気を感じることを。
 右方面のブロックからは信じられないほどの強者を感じさせ、ルイスとアメはひるんだ。こんな都会のど真ん中でこんなにも強い人間と対峙する羽目になるなんて。そんなマイナスとは裏腹に、彼らはこの状況を楽しみ始めたことも追記しておく。一人を除いて。

 長い沈黙の末、ルイスが銃に手をかけ、アメが足を踏み出そうとした瞬間、異質な音が辺りを包んだ。
 チャララ~ララ、チャララララ~。
 世に言うチャルメラという音楽だ。それを止めたのはおそらく最後の一人。
 ピッ、「もしもし」
 この場においてありえない光景であろう。
 最後の一人のところにはもう一人、殺気を持たないド素人がいるとでも言うのか。それにしてもそんな状況とはなんだ、とルイスは首をかしげる。しかし、こちらも似たようなものかと思い直す。殺気の無いふりでずっと戦い続けている異常者、小島という存在を忘れていたからだ。
 相手もそんな敵を連れているというのか。
 ルイスはチラと小島の方を見る。殺気のないことの確認のようなものだ。
 しかし、そこにいたのは殺気をバリバリと出し、いや出し切っている小島の姿であった。その虚ろな瞳からは考えもつかない強者を提示しているようであった。
 「え、ウソ」
 これは右方向のブロックから。
 「この野郎」
 これは小島から放たれた言葉。
 
 小島 「この野郎。そこにいるのは魚田じゃねえか!!」

 テーブルからはみ出る、というレベルを超えたはみ出方をした小島。拳銃を投げ捨て必死に止めるルイス。ハテナが浮かぶアメ。

 小島 「てめえが『消しゴムの使い道を語れ』とか言うからこんなことに巻き込まれちまったじゃねえか。さっきまで全然状況を飲み込んでなかったからな!」
 
 ズンズンと最後の一人に向かって歩みを進める小島。もう無理だ、と投げ捨てた拳銃を拾って援護に回ったルイス。ハテナが浮かぶアメ。

 「や、やめろ」
 これは右方向のブロックの声。つまり、

 魚田 「あんたを巻き込むつもりはないんだ」

消しゴムの使い道⑦


 あいつ、飛び道具持ってたのかよ。なら初めから使ってくれよな、と文句をたれるのはアメである。
 アメの持てる武器となりうるものはナイフだけである。これ以上に仕事において効率的なものは買えない。それほどの財産しかないからアメは僻んでいるのだ。
 そうか、あと三人か…。

 小島 「ま、まさか…銃ですか?」
 ルイス「ええ。銃ですけど」
 小島 「銃ですけど、って。そんな当たり前な事みたいに」
 ルイス「いつまで演技するつもりですか、カメレオンさん」
 小島 「誰が爬虫類だ、オイ」
 ルイス「ちょくちょく素人の反応を凌駕してきますよね」
 小島 「(リアクションに関して)素人じゃないわ」
 ルイス「(危険な仕事に関して素人でないことは)知ってますよ」
 小島 「知ってんのかよ」
 ルイス「でも、演技は続けるんですね」
 小島 「…。すごいですね、あなたは。まるで緊張なんかしていない」
 ルイス「まさか、もうドキドキですよ。表面だけですよ、こんなんは」
 小島 「嘘だぁ。だって、超冷静でしたよ、あなた」
 ルイス「そんなことないですよ」
 小島 「またまたあ」
 ルイス「わざと顔出して人数と場所を把握するくらいのことは」
 小島 「え?(WHAT)」
 ルイス「え?「WHY)」
 小島 「めちゃくちゃに冷静じゃねえか!」

 そういって思わず顔を出した小島めがげて弾が飛ぶ。すれすれの所でルイスに取り押さえられ、危機一髪といったところであった。

 ルイス「何ですか。何かの作戦ですか」
 小島 「あ、もしかして少し焦った?」
 
 この時、極度の緊張から小島は人格が崩壊した。
 「グエッ」
 「ぐあっ」
 などと二回続けて人の声が聞こえてきたのでアメの方を見ると、彼はその場からいなくなっていた。同じように木の上と下にいた二人の気配もいなくなっていた。
 あと一人。

消しゴムの使い道⑥

 小島 「…ま、待ってくださいよ。これはぐふぅっ」
 ルイス「静かに。周りに溶け込んでしまうあなたの特質は分かりますが、その、殺気は持っていたほうがいいですよ」
 アメ 「無駄には撃ち込んでこないみたいだな」
 小島 「あの、えっと、状況が読み込めてないみたいで」
 ルイス「ちょっと、あなたプロ意識ですか」
 小島 「プロ意識って。これはリアクションってやつとは別物ですよ」
 ルイス「まあ、この状況でそれを貫くのはすごいですけどね。それだけ余裕があるってことですから」
 小島 「余裕なんてあるかいっ!」
 ルイス「…」
 アメ 「あんたもこの手のプロか。よろしくな」
 小島 「え?どうして無視なんですか」
 ルイス「よろしくお願いします、早速任務なんですね」
 小島 「いやあの、状況が」
 アメ 「ふふ、全く動じないんだな」
 小島 「状況が把握…」
 ルイス「静かにしましょうか」
 小島 「あ。全く動じないんですね」
 ルイス「まさかぁ、そんなこと――――」
 
 そういって謙遜とともにルイスがテーブルから顔を出した瞬間、ほんの瞬間に弾丸の軌道がルイスの頭部に一致し通過した。それでいてルイスの頭に穴が開かなかったのは、彼自身の身なりに似つかわしくない俊敏な動きにあった。
 
 アメ 「ちいっ。やっこさんずっと監視していやがる。気も抜けやしないね」
 ルイス「こういうのは苦手ですか」
 アメ 「苦手だね。第一、飛び道具が嫌いだ」
 ルイス「辛抱ならないんですね」
 アメ 「さすがに、この状況で外には出ないけどな」
 小島 「で、ですよね。(危ない、銃声の反対に疾走しようと思っちゃった)」
 ルイス「とりあえず、二手には別れたほうがいいと思います」
 アメ 「……なんだよ、その眼は」
 ルイス「いえ」
 アメ 「分かったよ。俺が行くよ、小さいものな」
 小島 「(いや、そんな眼はしていませんよ、と言いたい)」
 ルイス「射手はおそらく四人。木陰、木の上、右方面のブロック、左方面の花壇に各一人ずつ。丁度それら全てから死角になっているのがこの場所です」
 アメ 「つまるところ俺が右側のテーブルに移ったところで、花壇のヤツから死角でなくなるからまずいわけだ。花壇のやつを優先してやれよ、大男」
 
 アメは隣のテーブルに飛び移り、即座にそれを盾にする。騒音のように弾をはじいていく音が聞こえる。
 胸元から取り出した何かを花壇側に向け、極めて軽そうにルイスは人差し指をひく。すると、花壇からありとあらゆる音がしなくなった。
 
 残り三人。

消しゴムの使い道⑤


 CASE:ルイス

 大男ルイスは電車に揺すられながら焦っていた。
 急がなければならない、という危機感だけは強くなっていく。連絡しなければならない、と。
 でも、電話してはいけないよな。そんな風に周りを気にして生活しているのは彼の生きる世界ではかなり希少種であろう。
 ルイスは内心冷や汗をかいていた。こんな風に遅刻してしまうのは一度ではなかったし、ということはこんな時どんな罰が待っているのかも分かっているということであり、それを思うと更に焦ってしまうのだ。しかし、傍から見たなら表面上かなりどっしりしているように見えたことだろう。
 おそらく、世界の美女オードリーヘップバーンが彼を見たところで「彼は私では動かすこともできないわ」などと言い帰ることだろう。あの美女がそんなことを言うかはさておき。
 そんなこんなで電車はルイスの目的地に着いた。
 ルイスの頭の中ではかなり急ぎ足で車外に出たと思っている。だが、客観的に見たらゆっくりなことこの上なかっただろう。しかし、一秒における歩数が少なくともその一歩が恐ろしく大きいので速さからしてしまえば通常の人の急ぎ足であるのだ。
 改札に向かうまでの間にルイスはマスターに電話を入れることにした。無論、少しでも罰を和らげるためだ。

 マスター「……どうした?」
 ルイス 「見るからに、というより聞くからに怒っていますね」
 マスター「はあ?」
 ルイス 「いやだから、怒っていますよね」
 マスター「当たり前だろうよ、ボケ。なぜなら未だにお前のでかい図体が俺の視界に入ってこないからな」
 ルイス 「あはは。これだけでかいともう見えているかもしれませんよ」
 マスター「お前が悪いのによくそんなに平静を保っていられるな」
 ルイス 「いやいや、マスターも知っているでしょう。表面だけで、内心もう」
 マスター「お前と談笑するつもりは毛頭ない。いいか、改札を出たら右だ。改札出て右。改札出て右だ」
 ルイス 「し、知っていますよ」
 マスター「いいや、お前は分かっていない。改札出て右。間違うな、改札出て右だ」
 ルイス 「分かってますってば」
 マスター「そこのテラスに二人の男がいる。一人はカメレオンと呼ばれている凄腕の変装家だ。どこにでも溶け込んでしまうから見紛うなよ。そしてもう一人は顔に特殊メイクを施しているコードネーム素人という強者だ。俺はもうその場からいなくなるから、しっかりな」
 ルイス 「あの」
  
 ブツン。

 ルイス 「改札ってどっち口なのか聞こうと思ったのに…。まあいいや、改札出て右。改札出て右」

 この時、せっかちなマスターの性格と、焦りやすい楽天家なルイスの性格が裏目に出た。
 マスターの言う改札と、ルイスの思う改札の不一致。ちょうど真反対に位置する改札をルイスが抜けていったことを彼らはまだ知らないのだ。

消しゴムの使い道④


 CASE:アメ

 さびれた事務所。看板などは出していない、他に社員もいない、しかし確実に依頼だけはやってくる。どんな時代にも私怨は尽きず、その満たしきらない欲を他者に委ねるのもまた当たり前のことなのだろう。
 私怨なんてのはわたくしの怨みってことだ。そんなもの自分で処理してほしいものだ。そう思うのはボロボロのソファに寝転んでいるアメのいつもの想いだ。自分の職業、生きる糧を否定する言い分なので、よくハンスに指摘されたものだ。
 ボロボロのソファ然り、廃墟ではないかと見紛うほどの外観然り、斜めを向いて本来の意味を成していない門然り、この建物の辺りは人の気配がしない。不思議なことは、どこからか情報を得た一般人がここまで来て依頼を残していくことだ。この場所がわかるのも不思議だし、そうまでして依頼する状況も理解しえないものだ。
 しかし、今日も棒のついた飴をなめながら電話を待つ。こんなところに電話線を引くことに疑問を持つ人は多いが、アメは携帯電話やそのほかの便利な道具を持っていないのだ。電話と商売道具しか持っていないし、使うのだからそれぐらい許せ、と言いたい。
 小さくなってきた飴を外に出して見る。アメにとってこうやって小さくなるのを見れるから棒つきの飴をなめているのだ。消えるまでの過程が見えるから面白いのだそうだ。
 「顔の傷と釣り合わないんだ、その飴は」
 誰かの言葉が思い浮かぶ。
 「まあでも、そのなめている理由ってのは、職業に何となく釣り合っていていいと思うけどな」
 何だか知らないが肯定され、アメは悪い気がしなかったのを覚えている。
 「だから、お前の名はアメだ。有無は言わせない」
 そうしてハンスは笑ったのだったな、とやっとこさ声の主に思い至る。自分の二つ目の名前を付けてくれた男だ。
 なぜ今頃こんなことを思い出すのか。古い記憶だ。
 トゥルルルル。ガチャリ。
 「……」
 出て五秒は声を出さない。今回の依頼主との決まり事だ。

 アメ 「何か?」
 依頼主「今日、例のテラスに来てほしい。そこで依頼の細かい内容を言い渡す」
 アメ 「そうか、分かった」
 依頼主「よろしくな」

 ガチャリ。
 支度はすでにできている。どこかに呼び出されるのだろうという予感があったからだ。
 さあ行こうか。仕事だ。

 ガチャリ。
 今度はドアを開ける音だ。

消しゴムの使い道③

 CASE:小島

 魚田 「どうした、大丈夫か」
 小島 「ディレクター」
 魚田 「初めての全国放送だもんな。でも心配するな、お前の腕は確かで、面白いのは知っている」
 小島 「はぁ、ありがとうございます」
 魚田 「緊張しなけりゃ負けなしさ」
 小島 「緊張しますよ、そら。極度のあがり症で、大舞台は避けてきたんですから」
 魚田 「人が変わっちまうからな」
 小島 「うるさいですね」
 魚田 「なんで急に俺の番組に出てくれるようになったんだ?」
 小島 「きっかけなんて何だっていいんですよ。伊達政宗がずんだもちをくれたとか、そんなどうでもいいことです」
 魚田 「わけわからんな」
 小島 「僕も理屈では分かっていませんよ」
 魚田 「ま、その調子で自分の思う通りに進めてくれ」
 小島 「緊張しないで、ね」
 魚田 「そうだ。確認をしておこう。あそこの空いている席があるだろう、あそこでグータン。オッケー?」
 小島 「グータンって他局でしょう」
 魚田 「細かいことは気にするな」
 小島 「説明がざっくりしすぎです」
 魚田 「大丈夫。今まで通り」
 小島 「緊張しない。何べん言わすんですか」
 魚田 「その服ださい」
 小島 「これはコスチューム。社会人におけるスーツ」
 魚田 「冬らしくしようよ」
 小島 「いやだから、というより魚田さん僕のスタイル知っているでしょう」
 魚田 「…緊張は」
 小島 「しませんよ、ええ。何回目ですのん」
 魚田 「ハハ、その調子さ」

~~~~~~~~~~~

 魚田 「よっし、撮影だ。……オイ、あいつはヤバいぞ。小島の隣のヤツだよ。ここはやめだ、後日他の場所で撮り直し。出演者や全員に伝えておけよ。いいか、絶対だからな。撤収だ」

 テレビクルーは去って行った。
 唯一取り残された小島。

 小島 「(う~ん、この人顔の傷怖いなぁ)」

消しゴムの使い道②

 沈黙が続く。とっても気まずいの。

 小島 「(この三人でなぜ消しゴムの使い道を語るのだ。というより、消しゴム使ったことあるのだろうか、この二人は)」
 アメ 「……」
 ルイス「……」
 小島 「(なぜ何も喋らない。私が指揮を執る他ないのか…)あのぉ、今日はどういったご用件で?」
 ルイス「マスターに頼まれた。素人の指示に従え、と」
 小島 「(…素人って何の素人のことだ。私はそれなりにタレントとして―――)」
 アメ 「何をすればいい?確実にこなしてみせる」
 小島 「(何を!?何を確実にこなすのだ。ダメだ、ここに来てからハテナが多すぎる)あの、えっと、とりあえずこのフリップに従って進めていきますね。どうぞ」
 ルイス「……」
 小島 「け、消しゴムの使い道について話すっていう阿呆らしい企画でして、ハイ」
 アメ 「まる4、実際に消してみよう…」
 小島 「(だから何をだっ!?なぜそこに引っかかるのだ)」
 アメ 「得意分野だ」
 小島 「(…消すって、文字のことだよな。文字、文字、文字、あぁ聞けない)とりあえず、消しゴムの使い道について話し合いましょうか」
 ルイス「待て」
 小島 「ひぃっ。な、なんですか」
 ルイス「もしや暗号だな」
 小島 「んなわけあるかいぃ」
 ルイス「……」
 小島 「(やばい…普通にボケてきたのかと思ったぁ)す、すみません」
 ルイス「じゃあなぜ僕がこんな話を…」
 アメ 「気づいているだろ」
 小島 「(何に?)」
 ルイス「この殺気はやっぱり僕らにか」
 小島 「(何が?)」
 アメ 「ごめいとう」

 そうしてアメは机を蹴り、都会には珍しい樹木に向け彼らが死角となるようにテーブルを立てた。
 ガイン。ガイン。
 小島めがけて飛んできた何かが、鉄のテーブルに阻まれた。

消しゴムの使い道①

 都会、といってもごちゃごちゃと小うるさい騒音のないような極めて静かな街。商店街から少し離れたところに位置する喫茶店にむかうのは、生息地が夜の新宿とでもいわんばかりの、見るからに怖そうな大男である。
 その大男の待ち人はすでに喫茶店にいるはずで、大男は少しばかり急ぎ足である。


 小島 「……」
 アメ 「……」

 ここはお洒落なテラスを持つ、オシャレな喫茶店。
 であるのだが、テラスにいるのは二人だけ。それには、今日という日が平日であること以外に理由がありそうだ。
 何よりもこの二人、お洒落なテラスと不釣り合いなのである。それでいて、その不釣り合いな理由も各々異なり、バラバラなことこの上ない。
 一人はとてつもなくラフな服装で、都会をまるで感じさせない。それでいて冬もまるで感じさせない半袖、半ズボンという小学生スタイルであるのだ。つまり、『お洒落な』の部分に大いに引っかかるわけだ。
 そうしてもう一人。彼は『お洒落な』だけでなく、すべてのことにおいて釣り合っていない。まず、昼が似合わない。おそらく多くの銭湯で入湯を断りたくなる顔面の大きな傷。小柄ではあるが、並々ならぬ気力。

 小島 「(今日ここで消しゴムの使い道を話し合ってくださいと言われたが、これは一体どういうことなんだ。最初着いたときはあんなに賑わっていたのに、この小柄な男が現れた途端に皆どっかに行ってしまった。あろうことかこの男、私の前に座ってしまった
     正直に言おう。私、どうしたらいいか分からない)」
 
 そして、小島の視線の先に更なる不安が募る。
 見るからに大男、見るからにアメと同じ匂い、見るからにこちらに向かっている。
 ドキドキドキドキ。心音が止まらない。
 
 ルイス「……お待たせしたな」
 
 おかしな敬語を語り、怪しさを増幅させた大男はあろうことか小島の前に腰かけた。

 小島 「(ま、まさか。この三角の座り方、この配置。
     ……この三人でグータンやるつもりなのかっ!」

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劇団群狼×劇団すかんぽ

Author:劇団群狼×劇団すかんぽ
日本大学法学部「劇団群狼」と大妻女子大学「劇団すかんぽ」の公式ブログです。
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